移住者・定住者インタビュー

食べ物も、遊ぶ場所も、
豊かな自然があればいい。

加藤 修さん

  • #定住者

 一度山に入れば、とても喜寿を過ぎたとは思えない足取りを見せる加藤さん。春や秋は山菜やキノコ狩りをし、冬は雪が降ればイノシシ猟に山へ出かける毎日を送っている。智頭に生まれ、智頭の自然を愛する72歳。イノシシ猟にも同行させてもらいながら、地元を満喫する生き方や暮らし方を聞いた。

Profile

加藤 修(かとう おさむ)さん

1948年、智頭町生まれ。会社員時代から趣味で登山を始め、国内だけでなく国外の明峰にも果敢にアタックしてきた。狩猟免許も持ち、冬場はイノシシ猟をして、春秋は山菜やキノコ採りをするなど、山のことに精通している。

山に魅せられた若い頃

──温厚そうな加藤さんですが、山の話をされるとその顔つきが変わるというか、水を得た魚のように生き生きとした表情になります。若い頃に山にハマり、果敢な挑戦を続けたと言います。その好奇心と行動力こそ、加藤さんの今の生活を作っているようです。

加藤さん:

 若い頃、働いていた会社に入ってすぐに友だちと山に行きはじめ、山岳クラブに入ってどんどんのめり込みました。普通の登山に飽き足らず、岩登りをしたり、冬場は滝が凍ったところを登るアイスクライミングも好きで挑戦しました。休みがあっては、山梨の赤石山脈や甲斐駒ケ岳、富山の劒岳とか全国の山に行ったものです。山の頂上をクリアするピークハンターもいるんですけど、僕は登ったコースが楽しかったら頂上も登らずに降りることもあります。普通に道があるところは面白くないんでね(笑)。

 小さい頃は、智頭町内では街中の方の出身で、家の近くにある牛臥山という山に登っていたくらいで、特別おもしろいとかそういうのはなかったですけど、大人になって登りはじめたらその魅力にはまってしまいました。チベットの6千メートル級の山にも、未踏峰の山にも挑戦したり、若い頃から山が趣味でしたね。

 そんな風に足腰は鍛えていましたから、ある時から智頭町内のイノシシ猟をする仲間から声がかかりましてね。イノシシを追い出す勢子(せこ)をしてくれと頼まれ、それから手伝うようになったんです。そればかりでは面白くないから20年前に銃の免許も取りました。獲ったら自分でさばいて、肉は冷凍しておきます。僕らは雪に残った足跡を追って猟をするので、雪が降るかが勝負です。昔は年間15頭くらい獲っていたけど、この頃はあまり降らなくなって5頭くらいかな。でも、今年はよく降るのでもう5頭獲りましたよ。

地元の山にある魅力

──イノシシ猟をはじめ、とにかく暇さえあっては山に出向くという加藤さんは自らを「狩猟民族」と笑いながら呼びます。春は山菜、夏は渓流釣り、秋はキノコ狩り。食べたいものは自然からいただき、またそれを近所におすそ分けされるそうです。

加藤さん:

 智頭の山のことは、だいたい知っていますね。遠くから谷や尾根の形状を見たり、実際登ったら山の形がわかりますから、全部頭に入っているので地図なんて持っていくことはありません。冬と夏でも景色が違うし、大きな木や岩とか目印のあるものもあります。木の種類もある程度覚えてないといけませんけどね。芦津にあるオヒョウの木なんて、おそらく日本一なんじゃないかなぁというほど立派な木もあるんですよ。

 (妻の)眞由美は家の畑を耕すのが好きだったりする農耕民族だけど、僕は狩猟民族ですから(笑)。欲しいものがあれば外へ出て獲ってくるんです。春は山菜を採るし、秋はキノコ狩りを楽しめます。マイタケなんかは毎年でないんだけど、僕が一番採れるところを知っているし、あとはなめこ採りとか。山で採ってきたものはとても我が家だけでは食べきれないから、近所におすそ分けを持っていくんですけど、そのお返しにと言ってビールや焼酎を持ってきてくれるんです。だから、お酒は買ったことがないくらいです。

 夏になると、渓流釣りも楽しいですね。自分だけのスポットを見つけ、稚魚を買ってきてそこに放流して大きくなったら釣るんです。天然のマイ釣り堀ですよ。そんな風に四季折々の楽しさがあるのが智頭の山ですね。

民泊も、山も、智頭にいることの豊かさ

──杉の山並みを見渡せる自宅にお邪魔すると、遊びの達人である加藤さんならではという、こだわりの詰まったものがあちらこちらに。妻の眞由美さんと町としても力を入れている民泊の受け入れもされ、ゲストとの交流も楽しんでおられる様子。加藤さんを見ていると、智頭の暮らしの豊かさがわかるような気がします。

加藤さん:

 民泊も初めて10年くらいになるでしょうか。それより前から町に地域づくりの研究にくる先生や大学生を泊めていたりもしたので、いろいろな人が泊まりにくるのは全く違和感なくはじめましたね。昔は年間100人くらい受け入れていたかもしれません。食べたいと言えば、イノシシ肉を出したり、キノコや山菜もガイド役を頼まれたら案内したりしてね。去年は東南アジアやシンガポール、インドネシアなどが多かったですけど、外国人も泊まることもあるんです。文化も違うと困ることもないことはないけど、話を聞くのがおもしろいんですよ。

 智頭での暮らしは、困ることは特にありませんね。僕は積極的に人の中に出ていくタイプではないし、山に行くのも一人ですし。マイペースに好きなことをできることが一番幸せだと思います。そういう遊びをさせてくれる山には感謝していますが、智頭の山も今はまだ自然が豊かに残っているところもあるけど、これからも残していこうとしないといけませんね。最近は移住の人も増えてきましたが、智頭の良いところを知ってもらい、好きになってもらってまた新しい輪が広がっていくといいなぁと思っています。

──雪山を歩きながら智頭の自然を感じたのはもちろんですが、好きなことに没頭して生活をしている加藤さんの姿に豊かな暮らしとはこういうものじゃないかと思いました。こんな風に暮らせたらきっと楽しいはず。加藤さんの笑顔がそれを物語っていました。

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